【女装小説】くすんだ青い金曜日|第8話「鏡の中の全部」

女装小説

この小説について

『くすんだ青の金曜日』は、女性物の服に惹かれた32歳の会社員・中野和也が、誰にも知られない部屋で少しずつ女装を始めていく全13話の小説です。

小説を気軽な入口にしながら、作中に登場する悩みに関連したガイド記事も読める形にしています。

この物語は前の話から続いています。初めて読む方は、第1話「合格点」からお読みください。

この作品はフィクションです。

管理人マキ

はじめまして、管理人のマキです。

女装歴20年の経験も踏まえながら、身バレの不安に配慮した情報を初心者向けに分かりやすく整理しています。


本編

それから二週間ほど、少しずつ試すことが増えた。

オレンジ系の下地を買い、青髭の上へ薄く重ねてみると、思っていたよりも効果があった。

量が多すぎると、その部分だけ色が浮く。少なすぎれば、青みが残る。

何度か失敗しながら、少しずつ加減を覚えていった。

ウィッグも、前髪の位置を毎回少しずつ変えた。

鏡を見る角度も、自分の中で決まってきた。

ニットとスカートを着る手順にも、以前ほど迷わなくなっていた。

どれも完成した、という感覚ではなかった。

ただ、一つひとつの作業にかかる時間は、少しずつ短くなっていた。

ある夜、いつもの手順で服を着た。

ウィッグを被り、下地とファンデーションを塗る。

特別な日ではなかった。

誰かと会う予定も、翌朝早く出かける用事もない。

何も予定のない、普通の金曜日だった。

一通り終え、最後に鏡の前へ立ったとき、何かが違って見えた。

いつもなら、服だけが浮いていた。

髪と顔がちぐはぐに感じたり、どこか一つに目が止まったりした。

その夜は、鏡の中の姿が、ばらばらのものを組み合わせただけには見えなかった。

初めて、一つの姿としてそこに立っていた。

しばらく動けなかった。

似合っているかどうかを考えるより先に、

――これは誰だろう。

という感覚が来た。

見慣れた自分の部屋に、見慣れない誰かが立っている。

頭では自分だと分かっているのに、実感がすぐには追いつかなかった。

どれくらいそうしていたのか、よく覚えていない。

気づくと、スマートフォンを手にしていた。

誰かに見せるつもりはなかった。

ただ、この姿を、あとで自分が思い出せるように残しておきたいと思った。

理由を説明できるわけではなかった。

それでも、残したいという気持ちだけは、はっきりしていた。

スマートフォンを棚の上へ立てかけ、セルフタイマーを設定する。

少し離れた場所へ立ち、何枚か撮った。

シャッター音が、静かな部屋に大きく響いた。

撮り終えて、画面を確認する。

角度がおかしいもの。

光の当たり方が悪いもの。

立ち方が不自然なもの。

見るからに失敗している写真から、順番に消していった。

最後に、一枚だけ残った。

特別によく撮れているわけではない。

ただ、その一枚だけは、消すボタンに指を伸ばしても押せなかった。

今夜、自分がこの姿で鏡の前に立っていた。

そのことを、どこかに残しておきたかった。

写真を保存し、スマートフォンを伏せて置いた。

それから、いつもの手順で一つずつ外していった。

ウィッグを外す。

顔を洗う。

ニットとスカートを脱ぎ、形を整えて畳む。

すべてを元の場所へしまい、もう一度鏡を見る。

そこには、いつもの自分が立っていた。

電気を消し、ベッドへ入った。

目を閉じると、鏡の中で見た姿が浮かんだ。

しばらくすると、今度はスマートフォンに残した一枚を思い出した。

その夜は、それを何度か繰り返しながら眠りに落ちた。

さいごに

鏡ではまとまって見えても、写真にすると光の当たり方や角度、立ち方によって印象が変わることがあります。

和也はセルフタイマーで何枚か撮影し、失敗した写真を消しながら、最後に一枚だけ残しました。

作中に出てきた自撮りの光や角度、ウィッグ、表情の整え方については、こちらの記事で詳しくまとめています。

女装の自撮りをうまく撮るコツ|光・角度・ウィッグ・表情の整え方

この小説を続けて読む

前の話 第7話「首から上」

次の話 第9話「上、空いてたわよね」

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